著書「世界からバナナがなくなる前に」
〜食糧危機に立ち向かう科学者たち〜
ロブ・ダン

なんとも衝撃的なタイトルである。
バナナも一つの農園の優秀な産物と思っていた私は、電子書籍が嫌いとか言いながらも、この書籍を買わずにはいられなかった。
バナナがなくなるとは一体どういうことだろうか?

と読んで見ると、本書ではバナナを象徴とし、全体的には人類の食料生産が単一化することの脆弱性について警鐘を鳴らしている。

では、具体的に見てみよう。バナナがなくなるとはどういうことだろう?

と、どうやらその前に農業のグローバリゼーションの基本について考えてみる必要がありそうだ。
つまり、画一化された食糧生産による多様性の低下だ。

本書では2016年のデータによると人類が消費しているカロリーの80パーセントは12種類、90パーセントは15種類の食物から得ているに過ぎない。とある。

数多ある植物の中でわずかそれだけの品種に偏っていることはなんとも驚かされる。

この多様性の低下を導いた経緯は少し歴史を見る必要がありそうだ。
時代は、大航海時代にさかのぼる。
インカ帝国を発見した当時の探検家たちは、作物をヨーロッパに持ち帰ることとなる。しかし、この時選択した品種は多様な品種の中からごくわずかしか選ばなかった。

根菜類でいうと、十を超える根菜類の1万を下らない品種が栽培されていたらしいが、ヨーロッパに持ち帰られたのは1万分の1程度だったという。

アメリカ原住民はカエル、甲虫、ガ、ハチ、シロアリの女王、クモ、イナゴネズミ、藻類などを食べていた。(・・・なんかこれ、今の私の食と同じ気がする笑)
しかし、彼らはそれをたべものと見なさなかった。そのようなことが植物にも言えた。数万種類の作物からこの時に選ばれたのはわずか一握り。
そしてこの時の、作物が今も私たちもよく目にする食べ物となっている。

ジャガイモの奇跡と飢饉

中でも代表するべきがジャガイモだ。痩せた土地でも育つその生命力はヨーロッパの農業を大きく変えた。大航海時代にもたらされたジャガイモはすぐにヨーロッパに受け入れられ、特にアイルランドでは顕著で、19世紀初頭ほぼ一種類のジャガイモだけに依存するようになる。そしてそれが一大産業となることで収入も安定し人口は増える。

しかし、それが悲劇を招いた。
1845年ジャガイモ疫病がヨーロッパ中を襲ったのだ。ジャガイモが壊滅的に死んでいった。同じ品種のジャガイモだけに頼っていたアイルランドでは、この飢饉で100万人以上が死んだという。

衝撃的な数字である。

インカでは起こり得なかった惨劇の理由は品種の少なさにあるだろう。インカでは同じジャガイモでも相当の品種のジャガイモが栽培されていたのだ。

バナナも同じことが言える

今、世界のスーパーで売られているほとんど唯一のバナナの品種はキャベインディッシュ1種類である。
これはアメリカの会社により病気に強く効率のいいバナナが戦略的に販売されたからであり、それが今もそのまま続いている。しかもその生産には大量の農薬と化学肥料から多くの問題が起こっている。

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なおこれはバナナが育つ地域”以外”の話であり、私がラオスの市場でみるバナナは少なくとも5種類はある。市場に並ばないものを含めればもっとあるだろう。タネがないバナナと違い、ほとんど種しかないバナナもある。ちなみにキャベインディッシュ種は現地の人は栄養が少なく、農薬漬けだと言って食べない。さらに中国と隣接するラオス北部も農薬漬けのバナナプランテーションで深刻な健康被害が出ていることを付け加えておく。

そしてそれらバナナは全て株分けして作られるため、遺伝子的に同じであり一つの大きなバナナコロニーを形成している。いわゆるクローンだ。地球上で最大の集合的有機体の一部と言える。

しかし、先に見たジャガイモの例を見ると、この体制がいかに脆弱かがわかる。一度病気が発生したら、最大の有機体となったバナナコロニーは簡単に壊滅してしまうかもしれないのだ。

そして、すでにその病原体は発生しており、アジアから東アフリカへと拡大しているのだという。

先にも述べた通り、バナナは象徴としての一例である。
私たちが依存する作物の種類は驚くほど少ない。

農業が単純化し効率化することで世界を飢えから救った側面はあるかもしれない。しかし、それは長期的な持続可能性を犠牲にした短期的な利益によるものだ。

アイルランドのジャガイモやバナナがいい例だが、それだけでなく、コーヒーにキャッサバ、カカオのプランテーションなどいろいろな農作物で同じ現象が起きている。

多様なプランテーション(森)を作る意味

さて、本書はまだまだ入り口だけれども、ここでラオスの農園に目を向けて見る。
ラオスの桑園は少なくとも5種類以上の桑がランダムに植わっている。
そして、その間にマンゴーやバナナ、タマリンドや名も知らない豆類の木、モリンガなども植わっている
片隅で唐辛子や玉ねぎ、落花生なども育てて見たりしている

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もちろん養蚕にはかなりの桑を必要とするために、比率は桑が多い。しかし全てを開墾し桑だけを植えたりはしない全体のバランスを考え自然栽培で可能な範囲で育てている。
これによりAに虫が発生してもBは生き残るようなバランスが保てるのではないかと考えている。さらに、多様な桑を食べることでお蚕さんもよりよく育つのではないだろうか?

桑園だけではない。バナナもまたもともとあったバナナをランダムで植えている。

正直農園内にどれくらいに品種の植物が植わっているかは不明だ。しかし3haの中に少なく見積もっても100種類以上の植物が植わっている(数えれるだけでもそれくらいは軽く超えそうだ)。そしてもっと数えきれないだけの虫がいる。

インカ帝国の1万種には及ばないかもしれないが、この多様な環境はそれぞれの植物のバランスをとり、より強い集合体へとなっていることだろう。

この多様性ある桑園で綺麗なシルクを作り、
多様な環境のバナナを育て
現地のモリンガや生姜、ハーブなどが共生することで
持続可能で土を汚さない
バランスのとれた「森」という産業をこの地で
これからもやって行きたい。
彼らの笑顔とともに。

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そんなわけで、これからもシルクはもちろん、時期に採れた分だけバナナや生姜、ハーブなどを加工して日本に送っていこうと思う

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